R社では、今まさに新商品の開発が行われていた 「キャッチコピーは<ピッタリフィット ゼロスペース>です」 その新商品とは椅子だった 「どんな体系の人が座っても、すぐさま装置がその人の身体の 形を捉え、それに合わせて伸縮性のゲル素材が、椅子を 最適な形へと変化させます」 今までR社は、万人受けするようにと様々な椅子の 開発を試み市場へと放出していった しかし、微妙に形が合わないだとか、大きいとか小さいとか 当然ながら人によって感想もまちまちだった だが今回の椅子は違う 人に合わせて変形し、その人の背中や腰、首、頭の形など 全身に完全にフィットする仕組みになっているのだ スキマが無いため、座りながらにしてベッド以上の脱力感を 味わうことの出来る、素晴らしい椅子なのだ 全身の形を細かに捉える装置、人が最も脱力できる伸縮素材など 費用は通常の椅子よりはるかに高額だが、R社はそれ以上の満足感 をこの椅子は客らに与えてくれると信じて疑わなかった やがて、椅子の試作品が完成した 「これが、期待な椅子ってわけだな、しかし思っていたより ずっとシンプルな形をしているのだな?」 一般試験ユーザのS氏はまじまじよ椅子を眺めた すかさず、開発担当が説明を加える 「ええ、最初はこの通りごく普通のリクライニングチェアのような 形状をしております」 「しかし、この椅子に腰掛けると、椅子の内部に搭載されている装置が その身体の形を計測、伸縮素材をその人の身体にピッタリフィットする 形へと変化させるのです」 S氏は、ほぉ と関心の息を漏らし開発担当に尋ねた 「では、さっそく試しに座ってみてもいいかね?」 「ええ、どうぞ、ゼロスペースをお楽しみ下さい」 S氏が見た目はリクライニングチェアのそれに座った ピピッ 直後装置が作動し、S氏の体系を計測し始めた 計測の終了までに1秒とかからないスピード すぐに伸縮性の素材が、S氏の体系にピッタリと合う形へと変形し スキマを作らなかった しかし開発担当は驚愕し、そして大きく落胆した 「これは大失敗じゃないか、これではピッタリすぎて安らぐどころの話ではないぞ」 やがてS氏は窒息死した